丸善文房具目録 - その1

2010年09月09日

曾て時事新報記者の『筆とペン』と題したる社説は現時の書斎及事務室に於ける實務の渋滞する所以の眞原因を観破りし一大卓説と存じ候誠に此説の如く在来の毛筆を廃してペンを代用すれば総ての事務は三分の一の時間にて捗取る事と存候。弊店販売の萬年筆は最も此説を實行するに適するものにして一と度御試用あらば其便利なるは喩ふるにものなく、毛筆の不便なるに比べては中々に火打道具とマッチとの差に止まらず候。

           (明治30年代発行「丸善文房具目録」より引用)



 


 明治30年代の「丸善文房具目録」である。 丸善の創業は明治2年で、当時の名称は「球屋商社」(まるやしょうしゃ)といい、後に「丸屋商社」に変更されている。 この目録にも「Z.P. Maruya & Co., Ltd.」とある。 表紙の装丁は当時の人気作家に依頼したものであろう、なかなかお洒落だ。 この目録の中にはさまざまな文房具に加えて、ウォーターマンやオノト(デ・ラ・ルー)など、いくつかの萬年筆が紹介されており、丸善が萬年筆の販売にいかに力を入れていたかが良くわかる。 それにしても、萬年筆は筆よりも3倍も仕事が捗る、とはおもしろい。 はたしてわれわれ現代人は如何でせうか。
 
 夏目漱石は明治33年10月から2年間イギリス留学をしているが、ロンドンでもおおいに萬年筆を楽しんだであろうことは間違いない。 文房具好きの漱石はきっとこの丸善文房具目録を手にしていたであろうから、この目録をながめながら、「次はこの萬年筆を所望したい」などともくろんでいたのであろうか。 ちなみに、漱石はペリカンペン(De La Rue製Pelican Pen)などを使っていたことが知られており、内田魯庵からもらったオノトはたいそう結構気に入っていたようである。 これから何回かに分けて、漱石や魯庵が使っていたであろうと思われる萬年筆をいくつか紹介してみたい。