金ペンの復活に就いて

2010年08月21日

 万年筆の生命は、ペンにあり、ペンの生命はペン先にあると称されていますが、そのペンに使用する金地金の使用が、昭和十四年十二月禁止されてから、十余年振りに本年八月解禁となり、金ペンの使用が自由になったことは大変喜ばしいことであります。

 戦時下金に代 わるものとして、白ペン(ニッケルクローム鋼)を完成し、戦時戦後を通じ親しく皆様方に御愛用願って居る次第であります。 が然し平和の訪れと共に金えの憧れも急増し、戦後窮乏の中にも舶来パーカー・シェーファ等金ペン付の万年筆が、一部で漁り出されました。実際問題として只憧れるばかりでなく、金ペンと 白ペンとを比較する時は、その使い心地よさや、耐久力にも各段の差異あるは万人の認めるところであります。では何故夫だけの差異が生ずるかと申しますと、 尖端に装着するイリドスミンの熔融点は、摂氏約2500度ですから、装着する時は金が融けてイリドスミンを包む事になり、仕上がる際その金を取除くわけで すから、イリドスミンはその性質をそのまま使用出来元来の硬度を保つ事が出来るわけです。 これに対し白ペン(ニッケルクローム鋼)は、その熔融点は金よ り遥かに高く一四五〇~一五一〇度ですから、装着時の僅かな温度の差異に依り互に融合する事が多く、イリドスミン元来の硬質が低下するのは、やむを得ぬこ とであります。

 ここに尖端磨耗の限界にはつきりとした優劣が見られ、且つペン自体の耐酸性から見ても比較にならぬのが現状であります。使い心地の点、即ちペンの適度の弾力性に就いて も白ペンに於いては、その形状、厚さ等種々研究を続けて居りますが、金ペンのそれに比較して日本文学独特の弾力性は、未だしの感が深いのであります。

 以上くどくどと申し上げるまでもなく、万年筆に金を使用することは、万年筆が文化生活上便利と能率とを計り、国内産業の発展、貿易振興に資する本来の使命をより一層昂揚せしむる事となりその使用は、国家をも益するものである事を確信致して居ります。

 活社会の卑益する面に活動するものであって他の無益死蔵するの類とは、その規を一にするものではありません。従って私共業者として、対社会的見地から金ペンの復活は、日本の文化工場の意味に於て祝福すべきものと考えられる。


十全社発行 ”十全”  所載  ラミー高級万年筆 林製作所 研究部記「金ペンの復活に就いて」より転載




 金地金が使用禁止となった昭和14年は世界第2次大戦が勃発した年である。以来、14年あまりの長い間金ペンの使用が禁止されていたことにはあらためて驚 きを感じる。その間、ニッケルクロームのペン先が多く使用されていたが、ニッケルは耐酸性が劣りどうしても早く錆びてしまうこともあり、白ペンに勝るペン 先の開発に日夜勤しんでいたことやペンメーカーとしての苦労をうかがわせる記述がみられ非常に興味深い。ちなみに、ヨーロッパのペンメーカーでも同様に、 ほぼ同時期に金地金使用の禁止措置がとられているところが多い。