万年筆サミット・イン・札幌 / 2005 Fountain Pen Summit in Sapporo

2005年09月30日

 「1本の万年筆を持って集まりましょう」を合言葉に、万年筆愛好家72人が、「それぞ れの1本」を持って札幌に集合した。 その名も「'05万年筆サミッ ト・イン・札幌」。 名前からすると、難しい人たちの集まりかと思われるかもしれませんが、そうではありません。みんな万年筆を愛する、優しい人たちばか りの集まりでした。 セーラー万年筆の川口明弘氏らの発案により実現したものですが、北ペン倶楽部(ほっペンくらぶ: 林克郎会長)こと、北海道万 年筆愛好会が母体となり、万年筆の好きな人たちに呼びかけ、「それぞれの1本の万年筆を持って集まり、語り合いましょう」と始 まったのが この'05万年筆サミット・イン・ 札幌です。会場となった「サッポロ・ビール園」は、1890年に製糖工場として建設され、その後、製麦工場とな り、更に 1966年にサッポロ・ビール園となった由緒ある建物です。つたの絡まる外壁、その概観は幻想的でもあり、美しく、長い歴史を刻んできた貫禄を感じさせ る。当日、集合時間ぎりぎりにタクシーで会場に乗り込んだ私は、地元のラジオ局の取材スタッフや久しぶりに会う万年筆愛好家でごった返す会場入り口で、騒 然とした雰囲気の中でペンサミットの日を迎えた。


 初日は1部と2部に別れ、第1部は、伝統文化「鎧象嵌」の技と匠を継承 して人間国宝となられた中川衛氏による講演を筆頭に、万年筆業界のお歴々のお言葉がありました。第2部は、となりのスターホールに場を移し、近海の珍味が 並ぶレセプションという設定であった。第1部、第2部、いずれも興味をひかれる貴重なお話がありましたのでここにその一部を紹介しておきましょう。

 第1部は、3棟ある建物の中では一番新しいポプラ館で行われました。引 き続き福島一康氏の進行のもと、人間国宝の中川衛氏の講演で始まりました。中川氏は「鎧象嵌」の世界では第一人者であり、50代という異例の若さで人間国 宝に推挙された人であります。現在、「鎧象嵌」は存亡の危機にあり、中川氏なくしては「鎧象嵌」の伝承が途絶えてしまうということだそうです。 いわば日 本古来の伝統文化がまた一つ消滅してしまう危機であり、文化庁が、その伝統文化の滅亡を憂慮し、中川氏を人間国宝に推挙したのは賢明で至極当然のことであ る。その意味で、これからの中川氏の作家活動は、一作家としてのみならず、将来に向けての「鎧象嵌」の技術伝承という重要お仕事も担っておられ、文字通 り、日本の、そして我々の宝なのであります。日本古来の伝統である、金属に様々な異なる金属を埋め込んでそこに美を創造していく「象嵌」。その「象嵌」と いうものが、そもそもどういうものなのか、ということから始まり、鐙(あぶみ:武具)や刀にまで引例され、詳しく、分かりやすくお話された。 今日では、 この象嵌の技術を駆使して作品を造っている作家は少ないそうである。中でも、鎧のように何重にも象嵌を重ねていく「鎧象嵌」においては、特に難しい技術、 長年の鍛錬、そして、機械では測れない勘が要求されることから、それを昔ながらの工程を踏み造形作品を造ることのできる人は、おそらく、中川氏をおいて他 にはいないであろうということであった。会場では、中川氏の象嵌の作品を実際に手にとって見ながらお話を聞くことができ、大変貴重な体験であった。いずれ 象嵌を施した万年筆もでるとかでないとか、巷ではささやかれてはいますがどうなのでしょうか。

 

 セーラー万年筆社長の碓井初秋氏のお話も頼もしかった。「我々セーラーは、これまで様々な形で業界の発展、底上げに努力してきた。長原・川口のペンクリ ニックもその一環で、日本に存在するであろう億単位の万年筆の内、これまでにこの二人で約10数万本の万年筆をクリニックで面倒をみてきた。これからもあ らゆる手法で、できる限り業界を支えていきたい」と、強い口調で述べられたのは、日本の最古参万年筆メーカーのひとつであるセーラーが、これからも引き続 き業界の発展のために貢献していきたいという強い決意の表われでもあったように思う。 川口氏も、「これまでに、全国いたるところで万年筆クリニックを開 き、約10万本の万年筆の整備に当たってきました。これからも自分の身体が健康である限りこのクリニックを続けていきたい」とその強い決意を述べられた。

 

 最近、怪奇な(?)万年筆を作っているということで、つとにその存在が 知られつつある鎌田裕雄さんですが、その鎌田さんが、自慢の万華鏡とさそりのペンが付いた「ステンドグラス万年筆」、「屋久杉軸、般若万年筆」と「象牙の 羽根ペン」の3本を持参しお披露目した。そして、これらの万年筆を作ったいきさつや苦労話などを熱く語った。様々な面白い素材を見つけては自分で構想を練 り、そして、それを作ってくれるところへ持ち込む。値段は、「いくらになります」と言われれば、それで、一切お任せというから恐ろしい。万年筆の世界広し といえども、鎌田さんのように、世界に2つとない独自の万年筆を、おしがいもなく大金を費やして創りあげて楽しんでいる人も珍しい。マニアとは狂人という 意味もあるようだが、彼のような万年筆愛好家をマニアというのか? いずれにしても、「書くための道具」というよりは、「鑑賞する万年筆」なのであろう。 まさにこれが「鎌田ワールド」ということか。

 

 北ペン倶楽部、東京支部事務局長の稲垣太郎さんは「東京会」の近況報告をされた。「東京会の中には著名な 方も会員として名を列ねておられ、少しづつではありますが人数も増えてきております、これから先が楽しみです」と。 東京会は、ほぼ隔月に一度集まりを 持っています。 万年筆を持参で銀座ライオンに集まり、食事をしながら万年筆談義を楽しんでいます。万年筆の好きな方なら誰でも参加できます。詳細は「北ペン倶楽部・東京会事務局」に直接たずねてくださ い。

 

 松岡英輔氏の「万年筆文化を広めよう」というお話も共感するところが多 々あり、文化庁の人にも聞かせたいほどであった。「まだまだ万年筆を使っている人は少ない。ひと昔前までは結構大勢の人たちが使っていたGペンや、ペン習 字なども近頃では全く見かけなくなった、嘆かわしい」と。 そして、「これから万年筆文化を広めるためには、我々が何かをしていかなくてはいけない。たと えば、ペン習字も学校で採りいれてもらうよう働きかける。また、日本には無用となった万年筆がわんさとあるはずである。それらの万年筆を供出してもらい、 今度はそれを、万年筆を使ってみたいという人たちに提供していく。提供された人たちはその万年筆を受け取る条件として、必ず、その万年筆で書いたお礼の書 信を提供者に返す」というようなこともやってはどうかと具体的な案も出た。 と、まあざっとこのような、非常に内容の濃い、そして貴重なお話ばかりで、出 席した我々も「うん、うん」と共感、感激の連続であった。 感激のさめやらぬ内に、舞台は第2部の宴席の行われる「スターホール」へと移った。

 

 第2部のレセプション会場の「スターホール」は、ビール博物館のある建 物で外観がとても素晴らしい。我々を待っていたのは、というより、我々が待っていたというべきか、宴席には、北海道ならではの近海の珍味が山のように並ん でいた。筆頭のスピーチは、日本に、そして、蒔絵に憧れて北海道の美瑛に住むことになったというカナダ人万年筆コレクターのスティーブン・オーヴァバリー 氏。面白かったのは、ハワイに住むある人が、ガレージセールでわずか数十ドル(数千円)で蒔絵万年筆を買った。その蒔絵万年筆を、地元の万年筆コレクター が「ン十万円」で買い取り、あるオークションに出したら、なんと、それが「ン万ドル」になったという夢のような話。通訳の方が訳されなかったのですが、本 当の価格はここでは伏せておくことにしておきましょう。 我輩はと言えば、何の予告もなく、いきなり乾杯の音頭を任され至極簡単に音頭をとり、皆さんもやっとのことでビールにたどり着き、めでたく乾杯。それーっ てんで、みんな一斉に「腹が減っては戦はできぬ」とばかり、皿を持ち、タラバ蟹、刺身、寿司、スモークサーモン、etc.、エトセトラ、と腹ごしらえと相 成りました。蟹を食べる時って皆さん同じですね、話す口が止まり、皆さん黙々と食べておられました。勿論、私もたくさん頂きました。 おなかが落ち着いたところで、様々な懸賞品の発表。この日一番の高額品を当てたのは、名古屋から来た金本さん。なんと、15万円もする柘植製作所提供のブ ライアー万年筆でありました。もうすでに1本所有しておられるというから今回の商品は奥様のものになるんでしょうな。 その後は、北ペン倶楽部会長の林克 郎さん、田中暁男さんのお話、等々と続く中、みんな持参した「それぞれの1本」を見せ合いながら熱い熱い語り合いが続く楽しい時間でありました。 楽し かったー。 ところで、宴が終わった後に、タラバ蟹がまだウンザリするほど余っていたけど、あれ、どーしたのかなあ。 「モッタイナイ!!!」 

 

 2日目が定山渓温泉での懇親会が組まれておりましたが、私は、どうして もはずせぬ仕事があったため、初日のみの参加で失礼した。 北ペン倶楽部の林会長のお話では、2日目の定山渓温泉での懇親会には28名が出席されたとのこ とでした。天候も良く、紅葉の始まりもちらほら見ることができ、とても綺麗だったようです。 宿に着いてからは、まず温泉に入り、ゆかたに1本を差して集 まったとか。 温泉あり、美味しい食べ物あり、万年筆あり、2次会、3次会と盛り上がったとのことでした。 行きたかったぁー。私としても、温泉に行けな かったのが一番の心残りでした。かくして、第1回の「'05万年筆サミット・イン・札幌」は、大変な盛り上がりの中に行われ、めでたく無事終了と相成りました。 文化的行事とあり、地元 の北海道新聞、UHBテレビ(夕方のスーパーニュース)、STVラジオ(ライブ)などでも大きく扱われ、その反響も大きかったと聞いております。素晴らし いペンサミットでした。これだけの催事をまとめ上げるには大変なご苦労があったと思います。関係者の皆様、ほんとうにご苦労様でした。今後、第2回、第3 回と続けていき、そして、それが万年筆文化の広がりにつながっていけばいいですね。楽しい時間をありがとうございました。また、皆様とお会いできる日を楽 しみにしております。  (藤井)

 

 一部の写真は谷川みどりさん、木田紘之さんから提供していただきまし た。ありがとうございました。なお、写真の掲載については個々に承諾を得ておりませんが、削除を希望の方はお手数ですが連絡をください。 (info@euro-box.com  Tel: 03-3538-8388)

 

会場の札幌ビール園のスターホール。 外観が素晴らしい。

 

 

人間国宝中川衛氏の講演を聞くことができたのは貴重な体験でした。

 

セーラー万年筆社長、碓井初秋氏。

 

「'05万年筆サミット・イン・札幌」の発案者、セーラー万年筆の川口明弘氏と碓井初秋氏。

 

北ペン倶楽部東京会事務局長の稲垣太郎氏。


「日本に眠っている万年筆を再生して興味のあるひとたちに提供しよう」と熱く訴える松岡英輔氏。


鎌田裕雄さんのコレクション

左から象牙のクイルペン型万年筆、象牙の般若をあしらった屋久杉万年筆とステンドグラス製万華鏡万年筆。


みんな集まって「すごい、すごい」を連発。 (左端が鎌田裕雄さん:北海道新聞にも紹介された)


人間国宝、中川衛氏の作品に見入る。





夜のスターホールも一段と美しい。


第2部はお酒に美味しい食べ物がいっぱいで一段となごやか。(進行係の福島一康氏)


美瑛に住む、世界的に名の知れたコレクター、スティーブン・オーヴァバリー氏。


次々と景品の当選者の発表。 (セーラー万年筆の碓井社長)


柘植製作所の柘利徳社長  柘製作所は今年万年筆メーカーに仲間入りした。



右が北ペン倶楽部会長の林克郎氏。


ペンドクター川口明弘氏と人間国宝の中川衛氏は20年来の付き合いだとか。


(株)兵左衛門では漆塗り万年筆 や、

プロ野球で使用されたバットを回収し漆の箸を製造したりしているユニークな会社。








手造りの素晴らしいペンケースを造る日下公司   特に縫い目の仕上がり具合が素晴らしい。





UHBテレビでも放映されました。


私も持参のモンブランで記念の一筆。


松岡英輔氏と川口明弘氏。



2日目は定山渓温泉へ。 紅葉がちらほらと綺麗。



温泉の宴席も風情があっていいですよね。



ゆかたから自慢の1本を抜いて見せる稲垣さん。